仕事をしていると、クライアントの多くは何らかの専門家であることが多いです。
専門家とは、その分野で「何を重要だと考えるべきか」を知っている人です。
経験を重ねるにつれて、その業界の常識や評価軸、制約条件が身体化され、複雑な状況でも素早く判断できるようになります。
だから専門家は頼りになります。
一方で、その強みは思考の癖にもなります。
専門性とは、知識を増やすことでもありますが、それ以上に「前提」を身につけることだからです。
どの論点を重視し、何を優先し、どこに着地させるべきか。その前提があるからこそ判断は速く、正確になります。
しかし、新しい問いは、多くの場合、その前提の外側にあります。
だから専門家は、ときに専門外のことを考えるのが苦手になります。
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もちろん、専門外の人が有利という話ではありません。
前提を持たない人は自由に発想できますが、その一方で、本当に重要な論点を見落とすこともあります。
業界には、その業界でしか成立しない制約があります。
歴史があります。
文脈があります。
それらを知らずに考えれば、一見新しく見えても、本質から外れた答えになることがあります。
つまり、専門家にも、専門外の人にも、それぞれ見えなくなるものがあります。
だから、新しい答えは、そのどちらかから生まれるのではなく、両者を行き来する中で見えてきます。
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そのために必要なのが、「抽象化」です。
抽象化とは、現実から離れることではありません。
それぞれが持っている前提を一度横に置き、「本当に解くべき問いは何なのか」を考え直すことです。
業界の言葉ではなく、もっと普遍的な言葉に置き換えてみる。
目の前の課題ではなく、その課題が生まれている構造を見てみる。
そうして一度視点を上げることで、それまで別々だった考え方が、少しずつ一つの方向へ向かい始めます。
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論点を共に考える上で、抽象化だけでは十分ではありません。
抽象的な議論は、いくらでも続けられます。
しかし、考えることの目的は、考え続けることではありません。
少しずつ考えを収束させていくことです。
新しい仮説を立てる。
違和感を見つける。
前提を修正する。
また考える。
その繰り返しの中で、それまで漠然としていたものが、少しずつ輪郭を持ち始めます。
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仮説構築と修正を繰り返す中で、ある瞬間それまで何となく感じていたことが、一つの言葉として腑に落ちることがあります。
「そうそう、これが言いたかったんだよ。」
その感覚は、誰かに答えを教えられた瞬間ではありません。
自分の中にあったものが、ようやく言葉になった瞬間です。
思考とは、答えを固定することではありません。
一方で、答えを決めないまま考え続けることでもありません。
前提を疑い、視点を行き来しながら、少しずつ核心へ近づいていくこと。
専門性とは、その分野の知識を深めることだけではなく、必要なときにはその前提から一歩離れ、そしてまた現実へ戻ってこられる力なのだと思います。
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